キャンディデートジャーニーマップ(Candidate Journey Map)を完全解説します。

採用活動における候補者体験（CX）の向上は、企業イメージや採用成功に直結します。

本記事では、その鍵となるキャンディデートジャーニーマップについて、作成手順から活用法までわかりやすく解説します。

キャンディデートジャーニーマップ(Candidate Journey Map)とは

キャンディデートジャーニーマップ(Candidate Journey Map)とは、企業との最初の接点から入社に至るまで、候補者が体験するプロセス全体を可視化した図のことです。

• 「いつ」
• 「どこで」
• 「何を考え」
• 「どのように感じたか」

を時系列で把握できます。

採用における「候補者の視点」を深く理解するための強力な考え方です。このマップを作成することで、候補者体験（CX）における改善すべき課題点が明確になります。

キャンディデートジャーニーマップ(Candidate Journey Map)の目的

キャンディデートジャーニーマップ(Candidate Journey Map)を作成する最大の目的は、候補者が企業に対して抱くネガティブな感情を解消すること、そして入社意欲を高めることにあります。

採用プロセス全体を通して、候補者の満足度とエンゲージメントを向上させることです。候補者体験が悪いと、選考辞退や内定辞退につながり、企業の採用競争力低下を招くためです。

マップの作成により、「面接後の連絡が遅い」という課題を発見し、連絡スピードを改善した結果、辞退率が5%低下した事例などがあります。

候補者が抱く不満や不安を解消し、「この会社に入社したい」という強い動機付けを行うことが重要です。

キャンディデートジャーニーマップ(Candidate Journey Map)を作成する前に行うこと

効果的なキャンディデートジャーニーマップ(Candidate Journey Map)を作成するためには、事前に候補者のことを深く掘り下げて理解する必要があります。

• ペルソナ設計
• タッチポイントの洗い出し

ペルソナ設計

まず、「どのような人物に自社へ入社してほしいか」という理想像を具体的に設定します。これを採用ペルソナと呼びます。

単なる年齢や職務経歴だけでなく、「求職活動の動機」「情報収集の方法」「企業選びの判断基準」「キャリアへの価値観」などを詳細に設定します。

これにより、「誰」の体験を可視化するのかが明確になり、より共感性のあるマップを作成できます。採用ターゲットが複数いる場合は、主要なターゲットごとにペルソナを作成することが理想的です。

タッチポイントの洗い出し

次に、ペルソナが企業と接触するすべての接点（タッチポイント）を洗い出します。具体的なタッチポイントには、大きく分けて下記が当てはまります。

• 採用サイト
• 求人広告
• SNS
• 会社説明会
• 面接
• 内定通知
• 内定者フォロー

この洗い出しを行うことで、どの段階で候補者がどのような情報に触れ、どのような感情を抱くのかを予測する準備が整います。

特に重要なのは、「企業側が意図していない接点」、例えば転職口コミサイトや社員のSNS投稿なども考慮に入れることです。

キャンディデートジャーニーマップ(Candidate Journey Map)の作成方法

キャンディデートジャーニーマップ(Candidate Journey Map)の作成は、事前に設定したペルソナとタッチポイントをベースに、候補者の行動と感情をマッピングしていく作業です。

キャンディデートジャーニーマップ(Candidate Journey Map)のメリット

キャンディデートジャーニーマップ(Candidate Journey Map)を作成し活用することで、採用活動に以下のような多角的なメリットがもたらされます。

• 効率的に母集団を形成できる
• ミスマッチを防げる
• 理想と現状のギャップを把握できる
• 振り返りの基準ができる
• 候補者のインサイトを知れる
• 他の採用施策に応用できる

効率的に母集団を形成できる

企業が設定する理想的な候補者像に焦点を当てた質の高い母集団を効率よく集めることが可能になります。

なぜなら、候補者が「企業を認知する」フェーズで、どのような情報源（媒体やコンテンツ）に触れているかをマップから把握できるためです。

例えば、20代のITエンジニアが主にテックブログや特定のSNSで情報収集していると特定できれば、そこにコンテンツの予算やリソースを集中でき、費用対効果を高められます。

結果として、無駄な広報費を削減しつつ、自社に興味を持つ可能性の高い層に効果的にアプローチできるようになります。

ミスマッチを防げる

企業と候補者双方の満足度が高い状態で入社を実現し、早期離職のリスクを低減することができます。

なぜなら、ミスマッチの多くは、入社前の「情報不足」や「過度な期待」によって発生するため、マップによって課題を特定し、情報の透明性を高める必要があるためです。

例えば、RJP（Realistic Job Preview：リアリスティック・ジョブ・プレビュー）という概念があります。

RJP（Realistic Job Preview：リアリスティック・ジョブ・プレビュー）とは、採用活動において良い面だけでなく、仕事の厳しさや職場の課題など「ありのままの現実的な情報」を求職者に事前に開示する手法です。

これにより、入社後の「こんなはずじゃなかった」というギャップ（ミスマッチ）を防ぎ、早期離職の抑制や定着率向上、候補者の納得度を高めることを目的としています。

理想と現状のギャップを把握できる

採用活動における「企業が提供したい体験」と「候補者が実際に経験した体験」との間に存在するギャップを明確にできます。

ギャップを洗い出すことで、戦略的な改善点が浮き彫りになります。企業側が「良い」と思っていても、候補者にとってはストレスや不安の源になっている可能性があるためです。

企業は「迅速な対応」をしているつもりでも、候補者の視点では「面接結果の連絡が遅い」と感じる認識のズレを発見できます。

客観的な視点で採用プロセスを評価し、真に求められる改善を実行できるようになります。

振り返りの基準ができる

マップは採用プロセス全体の共通言語・共通認識となるため、採用活動の効果測定や振り返りの基準として機能します。

採用チームや関わる部署間で、統一された評価指標を持つことができます。個別の施策の良し悪しだけでなく、プロセス全体で候補者の感情がどう推移したかを測定できるためです。

「内定後のフォロー」フェーズで感情の落ち込みが見られた場合、その改善策の効果を次回の採用活動で測定する指標として使えます。データに基づいた改善サイクルを確立するための基盤となります。

候補者のインサイトを知れる

候補者が選考の各段階で何を考え、何を求めているかという潜在的なニーズ（インサイト）を深く理解できます。

候補者の真の動機や不安を把握し、寄り添ったコミュニケーションが可能になります。

インサイトが分かれば、辞退を防ぐための的確な情報提供や、入社意欲を高めるためのアプローチを設計できるためです。

「面接直前」のインサイトとして「具体的な配属先への不安」が分かれば、面接時にその不安を解消する情報提供を意識的に行うことができます。候補者一人ひとりにパーソナライズされた体験を提供する土台ができます。

他の採用施策に応用できる

キャンディデートジャーニーマップ(Candidate Journey Map)で特定した課題やインサイトは、採用プロセスだけでなく、広報活動やブランディングなど、他の採用施策にも幅広く活用できます。

特定のフェーズでの知見を、より上流の施策に活かすことができます。たとえば「企業の認知度フェーズでの課題」が分かれば、採用広報で強化すべき情報が明確になるためです。

「企業文化への理解不足」が課題として出た場合、採用サイトで社員インタビューの動画コンテンツを拡充するという施策につながります。マップは、採用マーケティング全体の戦略策定に貢献する包括的な資料となります。

キャンディデートジャーニーマップ(Candidate Journey Map)のデメリットと懸念点

キャンディデートジャーニーマップ(Candidate Journey Map)は非常に有効なツールですが、導入や運用においては、その効果を損ないかねないいくつかの課題やデメリットが存在します。

• 思い込みや主観が入りやすい
• 作りっぱなしになりやすい
• 情報過多で肝心な部分が抜ける
• 導入・運用に手間と時間がかかる

思い込みや主観が入りやすい

マップが現実の候補者の体験とかけ離れたものになってしまい、採用課題の本質を見誤るリスクがあります。

なぜなら、キャンディデートジャーニーマップ(Candidate Journey Map)は候補者の「感情」や「思考」といった内面を可視化するものであるため、作成者が自社の都合の良い解釈や思い込みで記述してしまいがちで、客観的なデータや事実を無視した内容になりやすいためです。

例えば、候補者に直接ヒアリングする代わりに、「応募者はここで不安を感じているはず」と採用担当者の経験則のみで感情曲線を決定してしまうと、改善策が的外れになる可能性があります。

したがって、作成時には、現役の候補者や内定者へのアンケートや面接後のフィードバックなど、客観的なデータを必ず基盤とすることが重要です。

作りっぱなしになりやすい

継続的な改善サイクルが回らず、せっかく特定した採用課題が未解決のまま残ってしまうという結果になります。

日々謀殺していると、マップの作成自体に大きな労力を要するため、完成した時点で満足してしまい、その後の具体的な改善策の実行や効果測定が滞ってしまうこと可能性があります。

例えば、マップ作成後、改善策の実行担当や進捗チェックの責任者を明確に設定しないと、日常業務に追われ、マップがファイルの中に眠ったままになってしまいます。

そのため、マップ作成と同時に、運用責任者、見直し頻度、改善策の実行期限を明確に定め、PDCAサイクルに組み込むことが不可欠です。

情報過多で肝心な部分が抜ける

マップが複雑になりすぎて、採用チーム全体での共有や活用が難しくなり、ツールとしての価値が低下してしまいます。

あまりにも多くの情報を一つのマップに詰め込みすぎてしまうと、かえって本当に重要な課題点が見えづらくなり、すべてのタッチポイントの情報を詳細に網羅しようとすると、マップが煩雑で理解しづらいものになってしまうためです。

• 候補者の行動
• 思考
• 感情
• 企業側の対応
• 課題点など、

例えば、選考プロセスの全フェーズで細かすぎる感情の機微まで記述しようとすると、本当に改善すべきボトルネック（感情の谷）が他の情報に埋もれてしまい、見過ごされる可能性があります。

したがって、まずは主要なフェーズと最も大きな課題に絞り込んで可視化し、シンプルで分かりやすいマップを作成することを心がけるべきです。

導入・運用に手間と時間がかかる

リソースが限られている企業や急ぎの採用ニーズがある場合、キャンディデートジャーニーマップ(Candidate Journey Map)導入の時間的・人的コストが大きな負担となってしまいます。

キャンディデートジャーニーマップ(Candidate Journey Map)の作成は、多くの準備と時間を必要とする長期的なプロジェクトになりがちで、特に、候補者へのヒアリングやアンケートなど、客観的なデータを集めるプロセスに多くの工数がかかるためです。

• ペルソナ設計
• データ収集
• インタビュー
• チームでの意見交換など、

採用担当者が日常業務の片手間にマップ作成を進めようとしても、十分な分析や議論の時間を確保できず、中途半端なマップになってしまうケースが見られます。

このため、全社的にその重要性を共有し、必要な時間や人員を確保した上で、段階的に導入を進める計画が必要です。

キャンディデートジャーニーマップ(Candidate Journey Map)を作成した際の事例

弊社で支援している企業で多かった課題は、選考辞退の多さでした。キャンディデートジャーニーマップ(Candidate Journey Map)を作成した結果、「一次面接から二次面接までの待ち時間」で候補者の感情が大きく落ち込んでいることが判明しました。

企業側は「平均的な期間」と思っていましたが、候補者にとっては「不安で耐えられない長さ」でした。

改善策として面接直後に「選考状況の中間報告メール」を自動送信し、選考の進捗状況とおおよその次のステップまでの期間を明記するようにしました。

結果的に、中間報告を導入後、待ち時間における選考辞退率が15%低下。

候補者の不安を先回りして解消することの重要性を痛感しました。候補者の体感時間に寄り添い、適切なタイミングで不安を解消することが、CX向上の鍵です。

まとめ｜キャンディデートジャーニーマップ(Candidate Journey Map)

キャンディデートジャーニーマップ(Candidate Journey Map)は、採用活動を候補者の視点から見つめ直し、本質的な改善を行うための必須のツールです。

採用競争が激化する現代において、候補者体験（CX）の向上は、企業が優秀な人材を獲得し続けるための重要な差別化要因となります。

ぜひキャンディデートジャーニーマップ(Candidate Journey Map)を作成し、理想の採用体験を設計してください。